経営者の方の中には「決算書」と聞くと、それだけで嫌気がさしてしまうという方も多いのではないでしょうか?
普段は、経理や税理士にまかせているという方も、銀行から効果的に融資を受けるためには、自らがその内容や「金融機関がどのように決算書を見ているのか?」かについて最低限の知識を持つことが求められます。
この記事では、決算書の簡単な読み方と、金融機関が決算書を見る際のポイントについて解説いたします。
「申告のため」と「融資のため」の決算は、どちらがよいのか?
決算書には、税務署に提出する「申告用」と、銀行に提出する「融資用」という2つの役割が求められますが、どちらか一方に偏った場合には、次のようなものとなりやすくなります。
〇 申告用 →税金は減らしたい →売上げ、利益を減らした決算書
↑↓ (相反した内容となりやすい )
〇 融資用 →できるだけ融資を受けたい →売上げ、利益の多い決算書
しかし、本来は、一方に偏らず、各々の用途に配慮した内容となっているのが「本当によい決算書」といえます。
とくに、売り上げや利益は融資の審査に大きく影響するため、納税を嫌がって、これらを少なく申告すれば、結果的に、融資を受けにくい体質を作ることとなってしまいます。
そのため、申告と融資の双方にとって良い決算書を作るには、経営者自身が自社の決算書の内容を理解し、銀行がどのような点に着目して評価をしているのかを把握することが重要といえます。
主な決算書資料の概要について
決算書は、大きく分けて「別表」と「貸借対照表」、「損益計算書」、「勘定科目明細」、「その他の計算資料」から構成されています。
このうち、経営者が決算書を読む上でとくに身に着けていただきたいのが、「別表1」、「貸借対照表」、「損益計算書」、「勘定科目明細」です。
別表1について
別表1とは、法人税の申告書の表紙となる表です。
別表には、その用途に応じて1~16までの種類がありますが、その中でも別表1はこれらの内容を網羅的にまとめたもので、主に法人の商号や本店、代表者や業種といったその法人の基本的な属性に関する情報の他、納付すべき法人税や還付される額、翌期へ繰越す青色欠損金の金額などが記載されています。
貸借対照表について
「貸借対照表」は、会社の財産を資産・負債・資本(純利益を含む)に分類して表示したものです。
会社の設立時期から直近の事業年度までの資産等の状況があらわされている点で、単年度分の損益状況が記された損益計算書と異なります。
損益計算書について
「損益計算書」は、一事業年度における会社の収支状況を表すものとなります。
会社の売上を起点として、そこから仕入れや経費を順次に差し引いていく形式のため、比較的内容が把握しやすいという特徴があります。
なお、損益計算書では全部で5つの利益が出てきますが、それぞれ意味が違うため、その内容を十分に理解すれば、さらに損益計算書を深く読むことができます。
利益の種類 | 内容 |
---|---|
売上総利益 | 粗利。売上げから原価を差し引いた残りの儲けを表す。 |
営業利益 | 粗利から販管費を引いた儲けを表す。会社の本業の利益 |
経常利益 | 営業利益から営業外の損益を引いた儲けを表す。 |
税引前利益 | 経常利益から特別な損益を引いた儲けを表す。 |
当期純利益 | 税引前利益から税金を引いた儲けを表す。返済原資の一部 |
勘定科目明細について
「勘定科目明細」は、貸借対照表や損益計算書に記載された項目(勘定科目)の詳細を記した資料となります。
たとえば、貸借対照表に記載されている定期の内容(どこの金融機関にいくらの定期がどのくらいあるか?)や、売掛金の明細(どこの会社に対していくらの売掛金があるか?)などといった勘定科目の詳細を調べることができます。
決算書の読み方のポイント
決算書は数字の違いを見る!
決算書は、一期分だけを見ても、あまり多くの情報は得られません。
決算書を使って、その企業の財務内容を正しく把握するためには、最低2期分、できれば3期分の決算書が必要となります。
たとえば、貸借対照表であれば2期または3期分の貸借対照表を並べて、「同じ項目にどのような変化があるのか?」、「なぜ、そのような変化が生じたのか?」について考えながら見て行くというのが正しい決算書の読み方の第一歩となります。
また、単に違いをつかむだけでなく、その間にどれぐらいの変化があるのかについても各種の計算方法を活用すれば数値としてわかるため、なんとなくではなく、具体的な変化を確認することが可能なります。
決算書と損益計算書はリンクしていないことに注意!
簿記を知らない方が、よくしてしまいがちな決算書の読み方の間違いとして、「貸借対照表」と「損益計算書」を一緒に読んで、その違いを探そうとすることがあります。
しかし、決算書と損益計算書は、ほとんどの項目でリンクしていません。
その中でも一つだけ両者をつなぐものがあります。それが「純利益」です。
損益計算書で計算された「純利益」は、最終的に貸借対照表の「利益剰余金」へと振替えられますが、その他の科目には関連性はありません。
このように貸借対照表と損益計算書とでは、純利益の部分だけでつながっているため、両方を見比べてみても、違いや関連性などは見つけられないということに注意が必要です。
大まかな数字で概要をつかむ
同じく決算書の読み方に慣れていない方がしてしまいがちなのが、「細かなとこまでじっくり読もうとする」ということです。
慣れてくれば、いろいろな項目も同時に読むことができるようになりますが、はじめのうちはすべてを読もうとせず、重要な項目だけ抑えるようにした方が理解が早まります
金融機関が見ている決算書のポイント
決算書は金融機関が企業の業績を判断したり、融資の可否を決めるための重要な資料ですが、確認の際には以下の項目をチェックしています。
「貸借対照表」について
○現金・預金の額が増えているか?
現金や預金について「前期と比較してどの程度増えているか?」、「毎月の支払いに足りるだけの分を確保できているか?」などが見られます。
なお、通常の中小企業については、できれば1ヶ月分以上の支払いができる程度の現預金の保有が望ましいとされます。
○利益(利益剰余金)は増えているか?
損益計算書による1年間の損益は、貸借対照表の利益剰余金へ反映され、その結果として実質的な資本金が増減することとなります。
そのため、純利益のマイナスが続けばその分、資本金が食いつぶされた状態となり(資本金の欠損)、さらにその状態が続けば、累積の赤字が資本金の額を上回る「債務超過」となります。
金融機関では、この資本の欠損や債務超過の会社に対しては融資に消極的、もしくは融資しないため、自社の資本金がこのような状態に陥っていないかの確認が重要となります。

資産の部 | 負債の部 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 4,000 | 借入金 | 4,000 |
売掛金 | 8,000 | 負債合計 | 4,000 |
資本の部 | |||
資本金 | 5,000 | ||
利益余剰金 | 3,000 | ||
資本合計 | 8,000 | ||
資産合計 | 12,000 | 負債・資本合計 | 12,000 |
資産の部 | 負債の部 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 4,000 | 借入金 | 11,000 |
売掛金 | 8,000 | 負債合計 | 11,000 |
資本の部 | |||
資本金 | 2,000 | ||
利益余剰金 | △1,000 | ||
資本合計 | 1,000 | ||
資産合計 | 12,000 | 負債・資本合計 | 12,000 |
資産の部 | 負債の部 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 4,000 | 借入金 | 15,000 |
売掛金 | 10,000 | 負債合計 | 15,000 |
資本の部 | |||
資本金 | 2,000 | ||
利益余剰金 | △5,000 | ||
資本合計 | △3,000 | ||
資産合計 | 12,000 | 負債・資本合計 | 12,000 |
○決算書での借入金の水準はどの程度か?
その会社の借入総額が、月商の何倍かを表すものとして「借入金月商倍率」がありますが、一般的な中小企業については、次の倍率が判断基準としてよく利用されています。
「債務超過の会社」の貸借対照表のイメージ
借入金月商倍率 | 水準 |
---|---|
0~3か月 | 借入金水準は適正 |
3~6か月 | 借入金水準は多い |
6か月~ | 借入金水準は過大 ※不動産賃貸業や旅館など一部業種はを除く |
そのため、この基準や業界水準よりも大きく超えない程度に、借入金の額をコントロールすることが必要となります。
○有価証券や固定資産などが正しく評価されているか?
貸借対照表では、有価証券や固定資産、売掛金などが計上されているのが普通ですが、通常、その評価は簿価で行われています。
しかし、実際の時価が簿価を下回っている場合には、実質的な資産全体の価値も低下してしまっていることになります。金融機関ではこのことを承知しているため、預かった決算書をそのまま鵜呑みにするということはしていません。
そのため、資産の評価においては時価と簿価を比較して、簿価より時価の方が低い場合にはこれを時価で見直すという作業をしています。
たとえば帳簿上では300万円の有価証券として計上されていたとしても、実際にはその時価が100万円しかない場合には、その評価を100万円として査定します。また、売掛金などについても、それが長期間回収できていない場合などには、その価値を0と評価することもあります。
なので、銀行は何も言わないから額面通りに見てくれているのだろうなどと考えず、このような部分については目減りして評価されているのだということを念頭に置いておいておく必要があります。
○仮払いなどの仮勘定や代表者に対する貸し付けがないか?
「仮払金」は、確定した旅費や出張費がわからないときに、とりあえず概算で支払う場合などで使う勘定科目です。出張から帰ったときは清算するため、通常であればこの時点でなくなるものです。
しかし、会社の中には、このような仮勘定の科目をそのまま残して決算書に計上しているところが少なくありません。
このような仮勘定が多額にある場合には、経理処理のずさんさが疑われるとともに、その多くが使途不明金であろうと推測されてしまうこととなります。
また、会社から代表者に対する貸し付けについても、会社のモラルが疑われるとともに、定期的な返済や利息の支払いが行われていない限り、返済されないものとして評価されてしまいます。
したがって、このような勘定科目がある場合には、極力、決算前に処理し、決算書には計上させないということが重要となります。
以上のような考え方をもとに、金融機関で作成するのが「実体的貸借対照表」というもので、下記のようなものとなります。
実態的貸借対照表の例
資産の部 | 負債の部 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 25,000 → 25,000 | 長期借入金 | 50,000 |
売掛金 | 20,000 → 15,000 | 短期借入金 | 30,000 |
有価証券 | 10,000 → 5,000 | 買掛金 | 10,000 |
商 品 | 20,000 → 17,000 | 未払い金 | 10,000 |
原材料 | 10,000 → 8,000 | 負債合計 | 100,000 |
仮払金 | 5,000 → 0 | 純資産の部 | |
固定資産 | 30,000 → 15,000 | 資本金 | 30,000 |
短期貸付金 | 20,000 → 5,000 | 利益余剰金 | 20,000(▲40,000) |
繰延資産 | 10,000 → 0 | 純資産合計 | 50,000(▲10,000) |
資産合計 | 150,000 → 90,000 | 負債・純資産合計 | 150,000( 90,000) |
この例では、表面的には純資産が50,000の比較的、優良な会社に見えますが、実態的な貸借対照表に置きなおした結果によれば△10,000の債務超過となるわけです。
このように金融機関では、決算書を会社の実態にあわせて修正し、評価しているということを覚えておいてください。
「損益計算書」について
〇 売上げは前期より伸びているか?
売上げが順調に推移しているかどうかは、過去3年程度の売上高を見て判断します。
また、「前年や前々年度と比較して売上げがどうだったのか?」というだけでなく、「同業他社の水準と比較してどうなのか?」という視点でも数字を見ることが重要といえます。
〇 売上総利益はどの程度か?
売上総利益は別名「粗利」ともいい、商品または製品の販売額とその原価との差額であると
同時に、企業の利益の源泉となるものです。
また、売上総利益を売上高で割った率を「売上総利益率」といい、これを過去の決算書の同じ数字と比較することで、その企業の原価の占める割合がどのように推移しているのかをチェックすることができます。
売上総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高
売上げが伸びていても、この率が悪化している場合には、仕入れ単価が高くなっており、経営効率が悪くなっていると判断されます。
〇 役員報酬は適正か?
役員報酬については、会社の体力を超えて過大に支払われていないかがチェックされます。
〇 減価償却は適正に行われているか?
減価償却は会計規則の上では任意となっていますが、金融機関では必ずこれをするものと考えています。なぜなら、これを任意にすることを認めてしまうと、利益の調整ができてしまうからです。
そのため、償却設備のある会社については、毎年、継続して減価償却費を法定の限度額まで計上しているかどうかがチェックの対象となります。
一般販売費、管理費その他について
一般販売費やその他の項目について共通してチェックされるのが、前期、前々期と比較して極端な「増減の差」がないかということです。
通常、企業は同じ内容の事業を行っているのであれば、一年間の経費についてもほぼ同じくらいになりますが、特別な理由もなく、特定の項目が突出しているような場合には、チェックの対象となります。
〇 支払利息や割引料のボリュームはどの程度か?
ノンバンクなどから借り入れをしているにもかかわらず、決算書にその記載をしていない
ような場合、ノンバンクの金利は高率のため支払利息が通常のものよりもかなり大きなものとなります。
金融機関では、このようなところからも、ノンバンク等からの借入れがないかどうかを確認しているため、支払利息額が大きい場合には、キチンと説明できるようにしておく必要があります。
〇 特別利益や、特別損失はあるか?
特別利益、特別損失とは、臨時的または特別に発生する利益や損失をいい、代表的な例とし
ては固定資産売却益・損失、有価証券売却益・損失などがあります。
ここでの利益や損失は一時的なものとして見られますが、その発生の原因については不自然なものでないかという確認がされます。
〇 当期純利益はどの程度か?
当期純利益と減価償却額は、返済力の源泉となるものです。
また、当期純利益は、会社にとっての最終的な儲けとなるため、必ずチェックされる箇所となります。そのため、この箇所がマイナスとなる場合には、基本的に追加融資などは難しくなるといえます。
まとめ
決算書は、会社の経営状況を表す最も重要な資料です。
今後の経営判断などはこれにもとづいて行うため、経営者としてはシッカリと自社の決算書の中身が理解できている必要があります。
また、その内容が悪いと金融機関からの借入れも十分にできなくなってしまうだけでなく、取引先の信用も失う可能性があります。
そのため、経営者としてはその作成を経理や税理士に任せきりにするのではなく、自ら理解し、積極的に経営に生かせるようにすることが望まれます。
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-前向きで実現可能な数値計画になっていない。
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